当センターでの手術 Surgery
鼡径ヘルニア・大腿ヘルニア
鼡径ヘルニアとは
鼡径ヘルニアとは、腿(もも)の付け根(鼠径部)の筋肉・筋膜が弱くなり、腸などの一部が脱出したものです。お腹に力を入れたときや立ったときに鼡径部がふくらみ、痛みを感じることがあります。
ヘルニアを構成する3大要素は、
①へルニア内容(小腸・大網・大腸・卵巣など)
②ヘルニア嚢(腹膜。この中に腸などのヘルニアの内容が入っている)
③ヘルニア門(ヘルニア嚢の出口)
鼡径ヘルニアになりやすい人
加齢(特に40歳以上の男性)、日常生活(咳をよくする人・妊娠している人)
職業(お腹に力がかかる人・立ち仕事に従事する人)
ヘルニアの種類
内鼡径ヘルニア、外鼡径ヘルニア、大腿ヘルニア
なぜ手術をするの?
脱出した腸をそのままにしておくと、腸の通りが悪くなり、腸閉塞(ちょうへいそく)をおこすことがあります。とくに問題なのは、ヘルニア嵌頓(かんとん)を起こした場合です。嵌頓(出口のところで腸が強く締めつけられる)を起こすと鼡径部がこぶ状にふくれ、激しく痛みます。さらに症状が進むと腸管壊死(ちょうえし:腸が腐ってしまうこと)になり、緊急手術(腸管切除)が必要になります。そうした症状が起こる前に手術をする必要があります。
どんな手術?
現在、鼡径ヘルニアを完全に治すためには手術が必要です。
手術の方法には、
①メッシュ(人工膜)を用いる方法
②従来からの方法(縫縮法)
③腹腔鏡でメッシュを用いる方法 があります。
①メッシュ(人工膜)を用いる方法を中心に行われてきましたが、腹腔鏡手術では鼡径ヘルニアになりやすい3つ(内鼡径ヘルニア・外鼡径ヘルニア・大腿ヘルニア)の弱い部分を全てしっかりと覆うことができる利点から、近年、③腹腔鏡を用いる方法、を行っていきます。入院期間は3~5日くらいです。もちろん、メッシュ(人工膜)を用いる方法を実施することも可能です。
①メッシュ(人工膜)を用いる方法
鼡径部の皮膚を約5~6cm切開し、ヘルニア嚢(のう)という袋の出口をしばり、鼡径部の弱いところを補強するのにメッシュ(人工膜)を用いる方法です。麻酔は通常、全身麻酔もしくは下半身麻酔の脊椎麻酔(せきついますい)で行います。手術時間は1時間前後で、術後疼痛も少なく早期に日常生活に戻ることができます。
③腹腔鏡でメッシュを用いる方法
腹腔鏡下ヘルニア修復術(腹腔内到達法TAPP法):

全身麻酔下で行う手術です。まず腹腔鏡を用いてヘルニアを確認します。
次に、ヘルニア部分に出ている腸と腹膜を内側に戻し、ヘルニアの穴を確認して、腹膜と筋肉の間に補強材をおいて固定します。腹腔鏡手術では鼡径ヘルニアになりやすい3つ(内鼡径ヘルニア、外鼡径ヘルニア、大腿ヘルニア)の弱い部分を全てしっかりと覆うことができます。
お腹の中に二酸化炭素のガスを入れてカメラを挿入してお腹の映像をテレビモニタで見ながら、ほかに2か所のきず(創:そう)をつけてここから棒状の器械(鉗子:かんし)をお腹に差し込んで手術するのが腹腔内到達法(TAPP法)です。
鼡径ヘルニア特有の合併症・偶発症
どの方法で手術をしても、ヘルニア再発の可能性があります。また、以下の合併症は通常術後2週間以内におこります。2週間経過した時点で、これらの合併症が無ければそれ以後に新たに発生する危険性はほとんどありません。
1. 出血
2. 感染(肺炎、創感染)
3. 漿液腫
4.神経痛 など
入院期間
当院では腹腔鏡下ヘルニア修復術(全身麻酔)は手術前日に入院し、
手術後翌数日で退院となります。
急性虫垂炎(急性腹症)
急性虫垂炎とは?
いわゆる『盲腸』のことで、虫垂に炎症を起こし、腹痛や腹膜炎を引き起こす病気です。
治療法(麻酔は、原則全身麻酔です)
手術療法・・・開腹虫垂切除術、腹腔鏡下虫垂切除術
保存的加療
入院、絶食・輸液、抗生剤投与を中心とした保存的治療。
保存的加療を選択した場合も、増悪する場合は手術が必要なことがあります。
放置した場合(炎症の程度により病態は異なります)、腹膜炎から敗血症になる可能性もあります。
どんな手術?
初回治療の選択肢: 手術,抗生剤投与の保存的療法
術式: 虫垂切除,ドレナージ術,回盲部切除術など
主な合併症と偶発症
主な合併症
①出血→再手術、輸血
②感染→膿瘍、腸炎
創感染→抗生剤投与、ドレナージ
創し開(腹壁瘢痕ヘルニア)→再縫合、手術
③腸閉塞(捻転、癒着)→鼻からチューブの挿入、再手術 など
主な偶発症
出血→輸血
他臓器損傷(腸管・尿管・血管など)→修復、ステント、再手術
胆嚢摘出術
胆嚢結石症、急性胆嚢炎、慢性胆嚢炎、胆嚢腺筋腫症などに対し、手術を施行します。
血液検査・腹部超音波検査・CT検査・MRI検査の結果、上記診断に至った場合に手術の適応となります。 そのまま放置した場合、腹痛発作を繰り返したり、胆嚢炎による腹膜炎を増悪させる可能性があり手術の適応と判断します。
胆嚢結石症とは?
胆嚢とは、肝臓で作られた胆汁(便の色のもと)を一時的に貯留しこれを濃縮する小なすほどの袋(容積50~90ml)です。胆汁は食事中の脂肪分が腸管から吸収されるのを助ける消化液で、1日約400~900ml分泌するとされています。
胆嚢結石症とは胆嚢の中に結石ができた状態であり、一生涯無症状で過ごす方もいらっしゃいますが特に胆石発作や胆嚢炎を起こした場合には手術の適応があります。
治療方法・目的
①手術・・・腹腔鏡下手術、開腹手術
②薬物療法
③体外衝撃波結石破砕療法
などの治療により、結石を除去することで、胆石発作・胆嚢炎を発症させなくすることを目的とします。ただし、②・③の方法では治療に時間がかかり、再発する可能性があり、一方、腹腔鏡の手術が普及したため手術治療が標準的治療です。
どんな手術?
胆嚢を摘出する手術です。最近では、腹腔鏡下の手術が標準術式です。
お腹に3~5箇所の小さな穴を開けて行う手術で、胆嚢結石だけを取るのではなく、胆嚢をとる手術です。胆嚢を取っても欠損症状はほとんど認められません。総胆管の径が太くなることで、その機能が代償されるといわれています。
腹腔鏡下手術の利点と欠点
従来の開腹よる胆嚢摘出手術と比較して次のような利点・欠点があります。
利点
・手術による侵襲が小さく、回復が早いため、手術翌日から経口摂取が可能で入院期間が短くすみます。
・創が小さいため、術後疼痛が少なく術後早期から離床が可能です。
・同様に創が小さいため,手術の傷が目立ち難くなります。
・創への腸管などの癒着が軽減されます。
ただし、以下の理由により、腹腔鏡下手術が困難な場合には開腹手術へ移行する可能性があります。
・胆嚢壁が炎症により肥厚していたり、周囲との癒着が強い。
・胆嚢や肝臓からの出血が多く止血が困難である。
・総胆管にも結石が認められ摘出が困難である。
・胆嚢癌が疑われる。
胆嚢結石症:1%弱、急性胆嚢炎:1〜1.5%、60歳以上:9%
⇒胆嚢癌の合併(1%弱)が認められた場合には追加治療が必要なことがあります。
・胆管を損傷した場合 など
主な合併症と偶発症
合併症
腹腔内合併症・・・出血 、胆汁性腹膜炎、感染症(創感染・腹腔内膿瘍など)、腸閉塞 等
術中偶発症
胆管損傷⇒修復の際,胆管内にチューブ留置したり、胆管空腸吻合術を行うことがあります。
総胆管に結石の遺残・再発⇒ 多くの症例は内視鏡で治療可能です。
困難な症例では、再手術することもあります。
胃疾患
胃癌などの疾患に対して手術を施行します。
胃癌とは?
日本でもっとも多い癌の一つです。 胃の粘膜の細胞が悪性化したものを『胃癌』といいます。 胃癌は、はじめ粘膜から発生し、徐々に胃壁、胃の外側の腹膜やリンパ節、他の臓器に転移していきます。
・転移
血行性→肝・肺・脳・骨など
リンパ行性→リンパ節 腹膜播種,他臓器浸潤など
・放置
出血→貧血 狭窄→腸閉塞(食事摂取困難)
進行→転移,癌性疼痛
・臨床病期:0 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ
5年生存率 Ⅰ:99.1%,Ⅱ:72.6%,Ⅲ:45.9%,Ⅳ:7.2%
どんな手術?
幽門側胃切除術
胃の約2/3を切除し、腸と再建する(つなぎあわせる)方法
胃全摘術
胃の全てを削除し、食道と腸を再建する(つなぎあわせる)方法
姑息手術(バイパス手術)
食べ物が通るように、新たな通り道(バイパス)を作る方法
腹腔鏡下手術
主な合併症と偶発症
主な合併症
①出血→再手術、輸血
②縫合不全→腹膜炎、絶食・中心静脈栄養、再手術
③感染→膿瘍、腸炎
創感染→抗生剤投与、ドレナージ
創し開(腹壁瘢痕ヘルニア)→再縫合、手術
④腸閉塞(捻転、癒着)→鼻からチューブの挿入、再手術
⑤腸管麻痺
⑥膵炎・膵液漏(リンパ節切除の影響で発症)
⑦ストレス→潰瘍
せん妄→内視鏡、薬剤投与、身体抑制
主な偶発症
出血→輸血
他臓器損傷(腸管・膵臓・脾臓・血管など)→修復、再手術
術後、退院前に栄養指導(食事摂取の注意点)を予定しています。
大腸疾患
大腸癌などの疾患に対して施行します。
大腸癌とは?
大腸は、盲腸(虫垂)・上行結腸・横行結腸・下行結腸・S状結腸・直腸の総称です。
大腸の粘膜の細胞が悪性化したものを『大腸癌』といいます。大腸癌はいわゆる大腸ポリープが癌化するものが大半で、早期の段階で発見されれば、内視鏡的に切除・治癒します。
徐々に進行すると、リンパ節や他の臓器に転移していきます。
・転移
血行性→肝・肺・脳・骨など
リンパ行性→リンパ節
腹膜播種,他臓器浸潤→子宮・卵巣・膀胱・小腸・腎臓・十二指腸など
・ 放置
出血→貧血, 狭窄→腸閉塞(食事摂取困難)
進行→転移,癌性疼痛 など
・臨床病期:0 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ
(5年生存率 0:95%,Ⅰ:90%,Ⅱ:80%,Ⅲa:70%,Ⅲb:55% Ⅳ:13%)
どんな手術?
腫瘍を中心に、口側及び肛門側の腸を約10cmずつ切除し、腸と腸を吻合再建します。
主な合併症
主な合併症
(早期):
①出血(3%)→再手術、輸血
②縫合不全(3%)→腹膜炎、再手術、一時的人工肛門造設
③感染(7%)
膿瘍、腸炎、創感染→抗生剤投与、ドレナージ
創し開(腹壁瘢痕ヘルニア)→再縫合、手術
④腸閉塞(捻転,癒着)(1%)→鼻からチューブの挿入、再手術
⑤臓器損傷(腸管・尿管・血管など)→修復、ステント、再手術
⑥腸管麻痺(7%)
⑦排尿障害、排便障害
⑧ストレス→潰瘍、せん妄→内視鏡、薬剤投与、身体抑制
⑨神経障害など:手術中の体位によるしびれ、褥創など
(晩期):
① 排便障害
② 排尿障害
③ 性機能障害
④ 人工肛門のトラブル
周囲皮膚炎、腸管脱出・狭窄・陥没、傍ストマヘルニア
人工肛門について
肛門を使う排便機能を失った状態の時に、便の出口(人工肛門)を作成します。
*半永久的人工肛門を造設された場合、身体障害者申請が適応されることがあります。
以上、何か不明な点がございましたら、遠慮なく病棟スタッフに質問してください。
全身麻酔・外科的ストレスに伴った合併症・偶発症
① 心→心筋梗塞、不整脈、心不全
② 肺→肺炎、無気肺
③ 肝→肝機能障害、肝不全、黄疸
④ 腎→腎機能障害、腎不全、血液透析
⑤ 脳→脳梗塞、脳出血、脳炎
⑥ 骨髄→貧血、顆粒球減少症、播種性血管凝固症候群など
⑦ 血栓→梗塞(脳、心、肺:肺動脈塞栓症など)
⑧ 糖尿病、肥満、高齢などの患者さんには高リスク群 手術死亡率:胃癌全体として0.1%以下
ただし、手術侵襲の程度や患者側の状態などによりリスクは若干増加します
消化器内科センター
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